【連載】小野員裕の田苑酒場巡礼 高田馬場「あけぼし」

高田馬場界隈を行き交う人々は、中国、ベトナム、ミャンマーなどの外国人が目立ち、まるで日本とは思えない光景に目を見張る。それに伴い彼らが集うエスニック料理屋も数多くあり、実に混とんとした営みが息づいている。

 

また大学や各種専門学校の学生がひしめく街でもある。入学シーズンともなれば、駅周辺には学生があふれ出し、特に5月過ぎになると、各種サークル、クラブの歓迎コンパラッシュだ。

しかし社会人の憩える飲み屋もあるものだ。それはメイン通りからちょいと外れた横丁などに多く点在している。

 

立ち飲み屋「あけぼし」もその一つだ。客層は地元の方々が多く、職人、サラリーマン、スーパーの店員、クリエイターと実に様々。またこの店の噂を聞いて遠方からの一人客やカップルなども来店する。

 

立ち飲みといっても折りたたみ椅子が常備されているので、疲れた人は座って飲むことも出来る。店内はおよそ10人で目いっぱいだろう。

店主の五十嵐和啓さんと女将の栄さんのご夫婦で切り盛り。店主は様々な飲食店を渡り歩き、7年前にこの店をオープンさせた。女将の栄さんは金、土、日出勤だが、気が向くと他の曜日にも顔を出すことがある。また2人の人柄が最高で、そのキャラクターにほだされて毎夜客が集うのだ。

 

酒は生、瓶ビール、各種日本酒、各種ウイスキー、ハイボール、サワーと何でもある。当然この店にも「田苑 芋 金ラベル」「田苑 芋 黒麹仕込み」「田苑 芋」と各種常備され、特に人気があるのは「田苑 ゴールド」とのことだ。

 

「なに飲みますか」
「やっぱゴールドですね。水割りでお願いします」

 

日替わりで提供されるお通しが充実している。バンバンジー風キュウリのサラダ、タコのイタリア風和え物、豆腐の冷やしたぬきなど、この日は特別に何品か作ってもらったけど、なんとこれが無料とは頭が下がる。

「うちみたいな店はお通しでお金いただいたら、お客さんが離れてっちゃいますので」
いやいや、ちゃんとお代を取った方がいいと思うのだが。三々五々常連たちが入店してくる。
「ママ、今日は取材か?」
「お騒がせしています」
「いいよいいよ、ゆっくりやって」
と強面の旦那さん。

 

いつの間にか店内は満席。常連たちが今日一日の出来事を語らい、宴が盛り上がる。

 

「ママ、日本酒一杯ね」

 

しばらくするとマスターが小皿にスナック菓子を添えて客に配り始める。
「いただいていいんですか?」
「気にしなくていいよ、サービスだから」
と日本酒を飲み始めたスポーツ刈りの職人さん。しかしこれもサービスとは恐縮してしまう。

ご主人、女将さん、常連客がシンクロしワイワイガヤガヤと賑やかさが増す店内。ゴールドの水割りを片手に常連さんと打ち解けあい、いつの間にかほろ酔いだ。

 

居酒屋は一種のコミュニティ、社会の小さな縮図でもある。お互い知らない者同士が打ち解けあい、酒の助けも借りて一日の労働の疲れが癒され、明日への活力へとつながる。

 

「あけぼし」はそんな見本のような心地よい立ち飲み屋ではないか。

 

※本記事は、2020年3月下旬に取材しました。



〈店舗データ〉
【住所】 東京都新宿区高田馬場4-17-17 電話非公開
【営業】 17時~23時 土・日16時~21時
【休日】 水曜日
【アクセス】 JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線「高田馬場駅」早稲田口から徒歩4分

 

 


〈小野員裕のプロフィール〉
小野員裕(おの かずひろ / Kazuhiro Ono)
1959年北海道生まれ、東京都練馬区育ち。文筆家、大衆料理研究家、出張料理人。 17歳からカレーの食べ歩きを始め、横濱カレーミュージアムの初代名誉館長、「オールアバウト」のB級グルメガイドも務め、書籍、雑誌、テレビなど数多くのメディアで活躍する元祖カレー研究家。 これまでに食べ歩いたカレー専門店は1,000軒以上、飲食店は10,000軒を超え、いまも毎日1軒は食べ歩きを続ける日々。
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