【連載】小野員裕の田苑酒場巡礼 明大前「くろかん」

山形産素材を活かした創作料理と鮮魚が楽しめる憩いの居酒屋

京王線と井の頭線が交差する「明大前駅」は、駅名通り明治大学の和泉キャンパスがあり、近隣に日大文理学部、私立二階堂、日大鶴ヶ丘高校などがある学生の街。駅周辺はほどよく賑やかで、また住宅街でもある。

 

日本最古の伝説的ジャズ喫茶「マイルス」もこの駅にあり、古めかしい店内にはブルーノートの名盤が所狭しと犇めく風情は、往年のジャズファンの憩いの場所として密かに名を馳せている。

 

そんな駅前から線路脇の細い路地を代田橋方面へちょいと歩くと、どん詰まりに地元民に愛されている「くろかん」が現れる。店内は入口にL字のカウンター8席に奥に、2人、4人席テーブルが各1卓、2階は24席あり、宴会にも対応できる。明るい和風モダンな店内はいつも賑やかで、満席の時はカウンターの後ろに立って飲む客もいる繁盛店だ。

 

ご主人の黒田信彦氏は、渋谷を中心に都内に数10店舗を構える飲食店「楽コーポレーション」で10年ほど修行。後に三軒茶屋の飲食店で働きながら、自らの店を構えるべく空き物件を探すこと3年、念願のこの店を構えて4年ほどになる。

 

ご主人は山形出身ということで、現地から地モノ野菜などを取り寄せ、そのほかは豊洲から仕入れている鮮魚や、創作料理が楽しめる憩いの居酒屋だ。

 

店内が見渡せるカウンターを陣取り、まずはビールで喉を潤す。

お通しの「玉コンニャク」も山形産、この味付けが抜群。嫌味な甘さが一切なく、ダシの旨味とほどよい塩加減がいい。これまた山形産の「クレソン」は特有のクセがなくサッパリとして実に美味しく尚かつ新鮮だ。

 

 

田苑焼酎で乾杯

酒のメニューを眺めると、なんと田苑の焼酎各種が勢ぞろい。「六十四」、「煮たて」、「田苑 金ラベル」、「田苑 芋」、「田苑 白ラベル」と5種類も。

「ずいぶんと田苑を揃えてるんですね」

 

「前職の楽コーポレーションのお店で田苑を扱っていたのがきっかけなんですが、とにかく営業の方に当時よくしてもらった思い出があるので」

 

なるほど、営業マンの努力の甲斐があるってもんだね。まずは麦焼酎の「田苑 白ラベル」のロックをいただく。

 

「う~ん、相変わらずサッパリとして旨いね~」

 

名物は「牛スジと豆腐の煮込み」。潔い味噌のピリっとエッジの立った味わいでさらに旨味充実、また嫌味な甘さがないのが素晴らしい。これをつつきながら、焼酎をチビチビ。芋焼酎の「煮たて」に切り替えて、いよいよメインの「刺し盛り」だ。大きな升に氷を敷き詰め、そこにツマを添えて、酢〆した金華サバ、石カレイ、真ハタ、ツムブリ、豊後のアジが美しくあしらわれた絵姿。フロアーのお姉さんが鮫皮のおろし器を持ってきて、これまた山形産の新鮮な生ワサビを目の前でおろしてくれる憎い演出。

くろかん名物「牛スジと豆腐の煮込み」

山形産の生ワサビでいただく「刺し盛り」

「美味そうだな」

 

まずは魚にちょい塩を付けワサビを乗せてパクリ。実に美味。次は醤油でワサビ、これもいい。どれも鮮度よく、また〆サバの塩梅も抜群だ。

 

「焼酎が進むね~」

 

しばらくすると、会社帰りのサラリーマン、カップルで店内が賑わい始める。僕もすでにほろ酔いだ。
和・洋・中の創作料理を数多く揃え、バラエティーに富んだ酒の肴はいつまでも酒宴を楽しませてくれる。また店主、従業員の方々が実にフレンドリー。肴の美味しさもさることながら、店側と客との隔たりのない風情、その空間の居心地の良さに誰もが酔いしれる。繁盛店の所以がうかがえる正しい居酒屋なのだ。


〈お店のご紹介〉
店名/くろかん
住所/東京都世田谷区松原1-32-11
連絡先/電話03-6379-3033
営業時間/18時~24時
休日/不定休
アクセス/京王線・井之頭線「明大前駅」から徒歩2分

 

 


〈小野員裕のプロフィール〉
小野員裕(おの かずひろ / Kazuhiro Ono)
1959年北海道生まれ、東京都練馬区育ち。文筆家、大衆料理研究家、出張料理人。 17歳からカレーの食べ歩きを始め、横濱カレーミュージアムの初代名誉館長、「オールアバウト」のB級グルメガイドも務め、書籍、雑誌、テレビなど数多くのメディアで活躍する元祖カレー研究家。 これまでに食べ歩いたカレー専門店は1,000軒以上、飲食店は10,000軒を超え、いまも毎日1軒は食べ歩きを続ける日々。
ホームページはこちら
http://onochan.jp/

 

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