今では、田苑酒造の代名詞とも言える「音楽仕込み」。仕込みや貯蔵の段階ですべての焼酎にクラシック音楽を聴かせる取り組みは1990年に始まり、2020年で30周年を迎えました。同時に、2020年は創業130周年という節目の年。
「音楽仕込み」「樽貯蔵」「長期貯蔵」のパイオニア企業として、さらなる高みを目指すために何ができるだろうか。思案を重ね、たどり着いた答えの一つが、田苑酒造の蔵から生まれるアニバーサリーソングの制作でした。

 

鹿児島県出身の作曲・編曲家で、NHK大河ドラマ『篤姫』の音楽なども手がける吉俣良氏に思いきって依頼したところ、二つ返事で快諾をいただき、アニバーサリーソング制作プロジェクトが本格的に始動!
今回は、我々の蔵に足を運んでいただいた吉俣良氏に、本プロジェクトをお引き受けくださった経緯や作曲の裏話などをお聞きしました。

 

 

鹿児島県生まれで焼酎をこよなく愛する。これが、音楽作りのアリバイになるんです。

──楽曲制作のみならず、オーケストラとの共演やソロコンサートなど多岐にわたる活動で多忙を極める中、私どものアニバーサリーソングの制作をお引き受けいただきありがとうございます。

「テーマソングの依頼はとても多いのですが、実は、そのほとんどはお断りしているんです。というのは、テーマそのものが漠然としすぎていて音楽を作るとっかかりすら見つけられないケースが大半だからです。

ところが今回は、蔵の中で焼酎に聴かせる音楽という明確なテーマがありました。音楽家としてそういう音楽の使い方もあるのかと嬉しくなりましたし、テーマもはっきりしていたので、それなら作れるかなと思えたことが大きかったですね」

 

 

──同郷というのは、あまり影響はしなかったでしょうか?

 

「もちろん、鹿児島県の酒造会社というのは、僕の中で大きかったですよ。なんといっても、鹿児島県人の郷土愛と団結力はすごいですから(笑)。数年前、ニューヨークでたまたま入ったバーのマスターが同郷で、『よし、鹿児島県人を集めようぜ』となったら、10代の若者から70代のおばあちゃんまでいっぺんに集まったほどです。

 

僕は音楽をイメージで作るタイプなので、縁もゆかりもないところから何かを生み出すというのが難しいんです。だから、NHKの大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』の音楽を作るときはロケ地にもなった琵琶湖を3周くらいしました。自分がその場に行くことで、何かとっかかりがほしいし、音楽を作るためのアリバイがほしいんです。

 

2023年に開催される『燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会』の式典音楽を手がけた際は、すべての会場を車で見て回りました。距離にすると2000kmくらい。全会場を見に行く理由はないんですけど、それが僕にとってのアリバイなんです。『俺は全会場を見た。だから作れる』という感じですね。

 

今回は、同郷であること、そして、僕が焼酎をこよなく愛するという2つのアリバイがあるところからのスタートでしたが、田苑酒造さんから声をかけていただかなかったら、自分からお願いしてこちらの蔵を見に来ていたと思います」

 

──実際に蔵を見ていただいて、何かお感じになったことはありますか?

 

「音楽を作るという視点で見て回りましたが、正直に言うと、混乱しました。静かな中で音楽が流れているのかと思ったら、機械の音などでけっこう賑やかで、ここでどんな音楽を鳴らすのがいいのか、見学したばかりである今は少し戸惑っています。

ただ、麹がプツプツと発酵しているのを見て、焼酎は生き物だと知れたことが発見でした。旨い焼酎になるために自ら発酵していくというのはすごくロマンがあると思ったし、まるで生命が誕生しているかのようにも感じられました。生命の誕生から焼酎の完成までが音になったらどんなふうなのだろうとか、そんなふうに考えていくのも面白いかもしれません。

 

いずれにせよ、『僕は蔵を自分の目で見たから作れるんだ』というアリバイはもう手に入ったので、これから一旦帰って、頭の中で鳴っている音楽をすべて取り払って、そこから作曲をスタートさせようかなと思っています」

 

──1曲を完成させるのに、どのくらい時間がかかるのでしょうか?

 

「方向性が見えたら、早いです。多分、3日くらいで完成します。ただ、そこに行くまでが長いんですよ。今日見たもの、匂い、そういったすべてを思い起こしながら、もう一度、蔵と向き合うところから曲作りを始めるつもりです」

 

──コロナ禍の今、聴いて前向きになれるような音楽を期待しています。そして、コロナ禍が落ち着いた後、年2回、蔵で開催しているクラシックコンサートで演奏できる日を楽しみにしております。

 

「僕自身、どんなものが生まれてくるのか今の時点ではわかりませんが、音楽に携わるものとして、焼酎に聴かせる音楽という新しい試みを楽しみたいと思います」

 


吉俣 良  Ryo Yoshimata
作曲・編曲家
1959年鹿児島県出まれ。美空ひばりのバックバンドでプロとしてのキャリアをスタートさせ、これまでに、『Dr.コトー診療所』(’03,’06)、NHK朝の連続テレビ小説『こころ』(’03)など、数多くのテレビドラマや映画のサウンドトラックを手がける。中でも、2008年度NHK大河ドラマ『篤姫』は異例の大ヒット作品となり、同年には、出身地でもあり『篤姫』の舞台にもなった鹿児島から“県知事特別表彰”を受け、2008年に“薩摩大使”、2019年に“鹿児島市ふるさと大使”を委嘱される。2019年、鹿児島市制130周年記念曲「未来へつなぐ鹿児島」を作曲。2023年「燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会」の式典音楽も手掛けている。
吉俣 良 オフィシャルウェブサイトはこちら
http://www.yoshimataryo.com/