カリブ海に浮かぶ美しい島々が背負ってきた歴史の上に「ラム」はある

映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のヒットで、イギリスではラムが大ブームになったという。海賊のジャック船長が浴びるようにラムを飲むシーンは確かにカッコよくて、ブームはその影響なのだろうが、海賊とラムの親密な関係は、もっと古くからも描かれていた。1883年に出版された冒険小説の古典ともいえる『宝島』にも、ワイルドな海の男の飲み物としてラムが幾度も登場する。

 

ラムの発祥は、カリブ海に浮かぶ島バルバドスかプエルトリコとされ、海賊たちが暗躍した時代ともピッタリ重なる。しかしラムを船に持ち込んだのは海賊だけではなかったようだ。


ときはヨーロッパ列強による大航海時代。長い航海に出る船乗りたちにはビタミンCの欠乏による「壊血病」が恐れられていて、その特効薬が、なぜかラムだと信じられていたのだ。だから大きな船が立ち寄る港周辺の酒場には必ずラムが置かれ、特にイギリス海軍なんぞは壊血病対策としてラムを隊員や船員に支給していたという。

 

この大航海時代にラムが誕生した裏には、本当に悲しいヒストリーがある。ラムの原料はサトウキビだが、もともとカリブの島々にはサトウキビは自生していなかった。15世紀にコロンブスが、アフリカ北西部沖のカナリア諸島から持ち込んで移植したのである。

 

そうしてスペインによる製糖工場が建設され、ジャマイカやキューバを含む周辺諸国で大規模なプランテーション化が進んでゆく。そこへ、植民地政策に出遅れたイギリスやフランスが我も我もと乗り込んできて、海賊がスペイン船を襲い、植民地を奪い、島々をサトウキビだらけにしていったのだ。

 

そのころカリブに住んでいたのは、アジアから渡来したモンゴロイド系の人々だ。はじめは彼らが製糖産業の労働力となったが、ヨーロッパ人が持ち込んだウイルスなどで、ほぼ絶滅。その代わりに連れて来られたのが、アフリカの黒人たちだった。

 

ヨーロッパからアフリカへ銃や商品を運び、アフリカからカリブへ奴隷を運び、カリブからヨーロッパへ砂糖を運ぶ。悪名高き三角貿易がはじまったのである。

 

三角貿易によって砂糖の生産量はどんどん増えたが、副産物も多く出るようになった。サトウキビから砂糖を精製する際には、砂糖に結晶化する部分と結晶化しない「糖蜜(モラセス)」があり、この副産物を原料としてラムは生まれたのだ。

 

先住民や黒人奴隷の犠牲の上に生まれたなんて、カリブの陽気なイメージのラムからは、ちょっと想像しにくいのだが…。

 

さて、ラムは糖蜜を発酵させて蒸留して造るが、発酵や蒸留の仕方で風味が3タイプに分けられる。

 

<ライトラム>
酵母を加えて発酵させ、連続式蒸留器を使い、タンクまたは内側を焦がしてない樽で短期貯蔵したのち濾過する。透明で、ソフトな香りとドライな味わいが特徴。カクテルのベースとして使われることが多い。

 

<ミディアムラム>
酵母を加えずに自然発酵させ、単式蒸留器または連続蒸留器で蒸留後、内側を焦がしたオーク樽で熟成させる。またはライトラムとヘビーラムをブレンドする。淡い琥珀色。

 

<ヘビーラム>
酵母を加えずに自然発酵させ、単式蒸留器で蒸留後、内側を焦がしたオーク樽で3年以上熟成。濃い褐色をしており、最も風味が豊かで、製菓用としての需要が高い。

 

色によって、ホワイト(シルバー)ラム、ゴールドラム、ダークラムの3タイプに分けることもあるが、もうひとつおもしろい分け方があった。ラベルに書かれたラムのアルファベット表記。産地によって旧宗主国が異なるので、そこが元イギリス領だと”RUM”、スペインだと”RON”、フランスだと”RHUM”となっているのだ。

 

もう何年も前になるが、ラムベースのカクテルを自分で作りたくてミキサーを購入した。本来は果実や野菜からジュースを作るための家電品。分厚いガラス製の容器にライトタイプのラムを適当に入れ、生ライムを搾り、ホワイトキュラソー、氷を加えてガガガーッと攪拌する。チタン刃なので氷も難なく粉砕してくれて、ものの1分でトロ〜リと冷たいフローズン・ダイキリができあがった。

 

フローズン・ダイキリはヘミングウエイがこよなく愛したカクテル。キューバへ移り住んだ晩年に、ハバナの「フロリディータ」という店でよく飲んでいたらしい。砂糖を入れるのが正しいレシピだけど、糖尿病を患っていたため砂糖抜き。その代わりラムはダブル。パパの愛称で親しまれた彼にちなんで「パパ・ドブレ(ダブル)」と呼ばれていたとか。

日本で人気のモヒートも好きだったようだ。ライトラムにライムジュースとミントの葉をたっぷり入れてソーダで満たすカクテルで、見た目も涼しげでおしゃれ。ミントの葉を突っついて潰しながら飲むととっても清々しい。

現在、マルティニーク島などフランスの海外県で造られるラムには、「アグリコールラム」と呼ばれるものがある。農業的製法というような意味で、製糖工場から出る副産物を原料にするのではなく、サトウキビの搾り汁そのものを原料にしている。砂糖を造ることなく、サトウキビから直接ラムを造っているのだ。

しかし、サトウキビは刈り取った瞬間から品質が劣化するので、近くに工場があって、すぐに搾って仕込まねばならず、さらには収穫時期にしか造れない。生産量はラム全体の3%程度なんだとか。そうまでいわれると、何としてでも飲んでみたくなる。ネット購入するのはたやすいが、”RHUM”にこだわる店を探すのも楽しいだろう。