桐たんすの思い出も一緒に、 現代に甦らせる。

桐たんす職人、田中英二さん。田中さんの手にかかると、傷みが激しく、使えなかった古い桐たんすも、まるで新品のように甦る。匠の技はどのようにして身につけられたのか。修復修理にこだわる理由はどこにあるのか。田中さんの腕前と思いに迫る。

 

道具をおろそかにしていると、どんなに腕を磨いても、いい製品は作れない。

東京・墨田区に工房を構える田中英二さん。テレビ朝日系列「劇的ビフォーアフター」「じゅん散歩」、日本テレビ系列「未来シアター」、NHK「cool japan」などで紹介されたこともあるので、ご覧になった方もいるのではないだろうか。古い桐たんすを新品のごとく甦らせる、匠の技を持つ桐たんす職人だ。

 

両親とも桐たんす屋の家系だった田中さん。桐たんすはもちろん、職人さんたちも間近で見ながら育つ。しかし、すぐに桐たんす職人の道を歩んだわけではなかった。

 

「2年ほどコンピュータ関係の会社に勤めて、企業のシステムやソフトウェアを作っていました。コンピュータもモノづくりですけど、それ以上に、カタチに残る仕事、長く使ってもらえるモノづくりをしたいと思うようになり、この道に進みました。」

桐たんす職人を目指した田中さんは、父親の勧めもあり、新潟県加茂市に修行に出る。加茂市は桐たんす生産量日本一で、職人の数も多い。中でも腕利きの伝統工芸士のもとで学んだ。

 

「道具の使い方から習いました。真っ直ぐにする、直角にする、平らにする、それが基本です。カンナやノミ、ノコギリなどの道具がきちんと調整されていないと、それができません。きちんと研いで、調整していれば、いい製品が作れます。」

 

道具や基本をおそろかにしていると、どんなに腕を磨いても、いい製品は作れない。それが田中さんの出発点だった。

 

桐たんすは分業で作られることが多く、木組み職人と仕上げ職人に分けられる。田中さんは両方の職人のもとで修行を積んだため、「一人で完成まで作り上げることができるのは、東京では私だけだと思いますよ」と言う。日本でも数少ない一人であることは想像に難くない。

 

壊れたところを直すのではなく、新たに甦らせて、現代に生かす。

そんな田中さんが精力的に取り組んでいるのが、古い桐たんすの修復修理。そのきっかけは2つあったと言う。

 

「1つは、イタリアで古い家具の修復文化を学んだこと。もう1つは、古い桐たんすを修復してお客様に届けた時、亡くなったおばあちゃんが帰ってきたみたい、と涙ながらに喜ばれたことです。」

 

桐たんすは、防虫性、防湿性、防火性に優れ、大切な着物をしまうのに適していることから、大正から昭和30年代にかけて、嫁入り道具のひとつだった。しかし、ライフスタイルが変わり、いま嫁入り道具として持参するケースは少なくなった。それでも、「おばあちゃんの桐たんすが物置に眠っている家はたくさんあるようです」と田中さんは言う。そして、「それを現代に甦らせたい」と。

 

桐たんすは3代もつと言われる。年数にして100年から150年。桐の木そのものの性質・特性は劣化しないので、表面や角の割れ・すり減り、接合部分に手を入れれば、使い続けることができるそうだ。

 

どのようにして修理修復するのだろうか?

 

「引き出し1つ1つの機密性を保たないと、桐の性質・特性が生かせないので、角が潰れて隙間があいているところは、紙1枚ほどの薄い木を作って足すこともあります。金具は外して、磨いてから取り付けます。傷みの程度によっては、板の状態までバラバラに解体して、新しい木を足してから組み直すこともあります。表面は砥の粉とロウを塗る伝統的な仕上げのほか、和室か洋室か使用場所やライフスタイルに合わせて仕上げるなど、お客様の要望をお聞きして作ります。」

さらに、田中さんならではの、こんな作りも。

 

「現代に住まいに合わせて、サイズを小さくすることもできますし、机や椅子に作り替えることもできます。」

 

木組みと仕上げ、両方できる桐たんす職人だからこそ、可能性は限りない。田中さんはさらに先の未来も見据えている。

 

「3代もつ桐たんすを、私が手を加えることで、さらに3代もつようにする。これからさらに100年先まで使えるものを作っていきたいですね。」

 

熟成には時間がかかる。それは、桐たんす職人も焼酎も同じ。

修復修理のために古い桐たんすを引き取ると、田中さんはその仕事ぶりをじっくり見ると言う。

 

「裏板や底板などに製造年や職人名が記されていることが多く、この時代はこうして作っていたのか、この人はここの作り方が上手いな、と勉強になります。これは活かせると思った技術や構造などは練習して、自分のものにします。」

 

刺激を受けて、自らの技に活かしているのは、古いものだけではない。田中さんは墨田区伝統工芸保存会に所属し、さまざまな職人さんたちと積極的に交流している。

 

「江戸時代から続いている伝統工芸をいまも仕事にしている人だけが入れる会です。保存会ですから、未来へ継承することが大事。そのためには、ただ単に伝統工芸を守る・伝えるのではなく、現代に合ったものを作るにはどうしたら良いか、どうすれば次世代に繫げることができるか、考えています。桐たんす職人は私ひとりですが、江戸木目込み人形、漆工、江戸切子、指物など、さまざま職人さんたちがいて、話をするだけでも勉強になります。」

まったく違う分野からの刺激が思わぬヒントや工夫に繋がることもあるのだろう。田苑酒造が焼酎を熟成させる際、クラシック音楽を聴かせている事を、田中さんに伝えてみた。すると…

 

「そうなんですってね。職人が一人前になるには時間がかかります。でも、ただ時間と経験を重ねれば良いわけじゃない。その間にどれだけ思いを込めて技を磨いたか、どんな刺激を受けて触発されたか。時間の過ごし方が大事だと思います。私たち職人も田苑さんの焼酎と同じですよ。」

 

古い桐たんすを現代に甦らせる田中さん。古くから伝わる技術に新しい創意工夫を加え、現代や次代に繫げていこうとする姿に、乾杯。

 

桐たんす職人・田中英二さん

(株式会社二葉桐工房 代表取締役)

●主なプロフィール
1964年 東京都墨田区生まれ
1996年 「すみだマイスター」認定
1999年 「伝統工芸職人による作品展」最優秀賞
2011年 「墨田区伝統工芸保存会」入会
2012年 「大江戸すみだ職人展実行委員会」会長就任
2017年 「東京都優秀技能者」知事賞受賞

●連絡先
住所:東京都墨田区文花5-9-5 テクネットすみだ4階
電話:フリーダイヤル0120-915-937
HP:http://www.futabakirikoubou.co.jp
メール:futabakiri@gmail.com

田中さんは作品展や実演販売にも意欲的に取り組んでいる。
興味のある方は足を運んでみてはいかがだろう。

 

(取材・構成=庄子明夫)

 

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