いつどこで飲んでも、田苑は田苑の味わいです。おいしかった金ラベルを、次に買ったら違ったなんてことは許されません。あたりまえのようですが、どうしていつも同じ味わいなのでしょうか?

 

お酒は、天然素材を原料に微生物の働きによって造られるもの。本格焼酎も原料や環境によって影響を受け、その味わいは工業製品のように画一的にはなりません。そこで重要になるのが、製造工程終盤の「ブレンド」という技術。貯蔵によって熟成が進んだ原酒の個性を見極めて、それぞれを絶妙にブレンドすることで均一したブランドの味わいへと完成させています。

 

田苑の『金ラベル』や『ゴールド』の場合はもっと複雑で、まず、はじめから原酒を造り分けています。製品の裏ラベルの原材料欄には、大麦・米麹・大麦麹と記されていて、これは米麹を使った麦焼酎と大麦麹を使った麦焼酎からできているという意味。わざと個性の異なる原酒を造ってブレンドすることで、田苑ならではの味わいを造り出しているのです。

杜氏の松下さんはいいます。
「ブレンドの一般的な役割は香味を調整することでしょうが、私はそれぞれの原酒の良さを最大限に引き出し、香味においてより特長を生み出すことだと考えています」

 

また『金ラベル』も『ゴールド』も樽貯蔵焼酎なので、樽材の影響も受けます。
「樽は天然素材なので1本1本に個性があります。新しい樽と古い樽では熟成の仕方が違いますし、使用回数や樽の大きさなどによっても焼酎への影響が異なります」

 

田苑は現在、数千本にもおよぶ樽を所有しており、今年詰めたばかりのものから10年以上貯蔵されているものまでさまざまな原酒が眠っています。これらの個性を把握していなければ、どの原酒をどれくらいの比率でブレンドしたらベストな味わいになるのかイメージすることはできません。原酒の管理もブレンダーの役目なのです。

 

「樽の種類や詰め回数、貯蔵年数などでグループ分けして管理しています。そして定期的に長いスポイト状の器具を使って樽から原酒を抜き出すサンプリングをして、色や香りの熟成確認や酒質確認を行っています」

超ロングセラーの『金ラベル』は、1985年に発売されました。以来、歴代のブレンダーが秘密の調合を引き継ぎ、その味わいを守ってきたわけです。目と鼻と舌を使って、バランスと一貫性をもたらす。それもブレンド技術のひとつといえるでしょう。

 

では、具体的にどのような方法でブレンドを完成させるのでしょうか。
「最終的なブレンド比率を決めるのは、数人で行うテイスティングです。原酒の特徴を見極めて、色と香りと味の評価からブレンドの骨格を決め、試験室で実際にブレンドします。そして市場に出るのと同じアルコール度数に調整して、ブラインドによる利き酒テストを行います」

基準となるのは、各自が培ってきた香味の記憶だといいます。その記憶とブレンドによって生まれた新しい香味を利き比べて、完全な調和を図るのです。

 

「口に含んで舌で転がしながら、口に含んだ瞬間のトップ、少しなじませてからのミドル、そして最後のアフター、3段階で評価を行いますが、その間は一切言葉を交わしません。互いのコメントに左右されることなく、それぞれが判断したことをメモしていきます」

 

その後、徹底的に話し合って、ブレンドの比率を決めるのは、利き酒がすべて終了してから。結果によっては、再度、原酒やブレンド比率の見直しを行った後、テイスティングを実施します。実際にブレンドした製品が造られるのは、もちろん工場の製造現場ですが、その比率を組み立てていくのがブレンダーたちの役割なのです。

 

また、既存の製品の香味を守る目的ではなく、新たな香味を開発するのもブレンド技術です。1987年に発売された『ゴールド』は、2007年に一度目のリニューアル、30周年を迎えた2017年には2度目のリニューアルが行われました。いずれも生まれ変わったのではなく、さらなる「進化」と「深化」によって「新化」したとされています。

所蔵している原酒は、歳月が経つにつれて熟成が進みます。それゆえ新発売時とは違う、より理想的なブレンドが可能になります。求める方向は同じでも、原酒がさらに素晴らしくなれば、新しいブレンドが生まれるのは当然のことなのです。

 

「ブレンドには正解がありません。いま最適と思っているブレンドでも、熟成が進んだり、新たに製造した原酒をブレンドすることで、いま以上によくなることが考えられます。決して現状を否定しているわけではありませんが、ブレンドも製造技術と同様に日々進歩しています」

 

所有している数千本の樽の中には、じつにさまざま原酒があり、その組み立て方によっては、まだまだ新しい香味が生まれる可能性があるといいます。原酒の特性を把握しているだけでなく、それらの組み合わせを思い描く想像力で、まだ見ぬ焼酎を創造していくこと。それこそがブレンドの最大の醍醐味かもしれません。