【連載】小野員裕の田苑酒場巡礼 地元で永く愛される門前仲町「富水」

下町風情が色濃く残る“門仲”屈指の海鮮居酒屋

門前仲町には長い歴史を誇る「深川不動尊」と「富岡八幡宮」の両社寺があり、この界隈のランドマークとして多くの観光客から人気を集めている。

 

毎年8月のお盆の頃に催される「深川八幡祭り」もまた有名で、赤坂の日枝神社の山王祭、神田明神の神田祭とともに「江戸三大祭」の一つに数えられている。それは盛大なお祭りで、大小あわせて120数基の町神輿が担がれ、永代通りなどを渡御する。その沿道の観衆から担ぎ手に清めの水が浴びせる光景から、通称「水掛け祭り」とも謳われ、この時期は観光客でごった返す有様だ。また、毎月1日、15日、28日に行われる「深川の縁日」は、門前仲町交差点の辺りから富岡八幡までの永代通りの北側歩道と、深川不動の参道に数多くの露店が立ち並び、夏祭りのような賑わいを見せる。

 

そんな下町風情の数多く残る界隈には、味わい深い大衆酒場、居酒屋も数多くある。中でも永代通りから深川不動、富岡八幡宮へ繋がる横丁に、地元で人気の「富水」は、酒場放浪を趣味とする人々からも愛される海鮮居酒屋として名を馳せている。

 

この店は元々70数年前から続く魚屋で、40年前に居酒屋に姿を変えた。昔の名残りで今も店頭では鮮魚の商がされる、珍しい形態の居酒屋と言っていいだろう。店内は70人ほどの客が収容できるほどのキャパがあり、連日夜は満員の有様だ。客層はサラリーマン、OL、ご隠居、家族連れで賑わっている。

 

創業当時から焼酎は田苑だけ!?

この日は団体客の隣の席に通される。まずは飲み物だ。

 

「田苑の麦で、水割りセットでお願いします」
「はいよ」

名物女将の高倉良江さんは客あしらいが上手で、また気風がいい。

「ところで、ここは『田苑』しか置いてないですよね、いつから扱ってるんですか?」

「創業当時からよ。営業マンの方がこられたのか、昔のことなんで覚えてないけど、とにかくうちは焼酎は『田苑』しか置かないの。この焼酎が気に入ってるのよ」

 

といって、出てきたのは「田苑 白ラベル」。仄かに麦の香る、軽やかな味わいの麦焼酎だ。

 

さてさて、酒の肴が来る前にちょいと一杯。「田苑」の麦を水割りにして喉を潤す。やっぱりうまいね~(笑)。お勧めは当然新鮮な魚介類、仕入れはすべて近所の築地からだ。

 

自慢の海鮮料理は何を頼んでも間違いない美味しさ

オーダーは刺し盛りを2人前ほど。中トロにブリ、鳥貝にタコ、ホタテ、カニ、子持ち昆布。どれも新鮮で旨い。そしてメゴチの天ぷらにアナゴの白焼き、双方塩でいただくと実に美味だね。なんだか江戸っ子って気分なのだ。ついつい田苑 白ラベルの水割りがクイクイ行ってしまう。そしてこの日の仕入れの目玉「釣りアジの造り」と評判の「コハダ」を一緒盛りしてもらった。活け締めにしたものは旨味がありさらに新鮮、また脂が乗って酒がそらに進むのだ。

今回は注文しなかったけど「アジフライ」も優れもの、ホクホクでシットリ、ソースでも醤油でも美味しい。仕入れがあれば「ヤリイカの煮付け」も旨いんだな。この日、台風上陸の最中にも関わらず、いつも通りの満席。みんなお酒が好きだね。

 

我々の後ろのサラリーマンの団体客も、もれなく「田苑」を傍らに、ロック、水割り、ソーダ割りで酒宴が盛り上がっている。小一時間ほどすると、満席の店内はガヤガヤと笑顔と熱気に包まれて行く、どの客も絶好調だ。方々から肴や酒の注文が殺到し、女将、従業員が忙しなく飛び回る。この賑やかな喧噪もまた酒の肴になるものだ。やっぱ「富水」は楽しくすごせるいい飲み屋だな。

 

〈お店のご紹介〉
店名/富水
住所/東京都江東区富岡1-10-3
電話/03-3630-0697
営業/11時~14時 17時~21時 土・祝11時~14時 17時~20時
休日/日曜日
アクセス/東京メトロ東西線・都営地下鉄大江戸線「門前仲町駅」1番出口から徒歩2分

 

〈小野員裕のプロフィール〉
小野員裕(おの かずひろ / Kazuhiro Ono)
1959年北海道生まれ、東京都練馬区育ち。文筆家、大衆料理研究家、出張料理人。 17歳からカレーの食べ歩きを始め、横濱カレーミュージアムの初代名誉館長、「オールアバウト」のB級グルメガイドも務め、書籍、雑誌、テレビなど数多くのメディアで活躍する元祖カレー研究家。 これまでに食べ歩いたカレー専門店は1,000軒以上、飲食店は10,000軒を超え、いまも毎日1軒は食べ歩きを続ける日々。
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