ボタニカルがキーワード。「ジン」を超えた クラフトジンが世界のトレンド

クラフトジンという言葉をはじめて聞いたのは3〜4年前だった。クラフトビールの次はジンなんだ…。でも誰が、どんなふうに造るんだろう?ビールのようにいろんな種類ができるのかな…?と思っていたら、あれよあれよという間に大ブーム! Barのバックバーには今、世界のクラフトジンに混じって、北海道、京都、広島、沖縄など日本各地で造られたクラフトジンが並んでいる。

 

そもそもジンは、カクテルのベースになる酒というイメージがあった。カクテルの王様といわれるマティーニを筆頭に、ハードボイルド小説『長いお別れ』に登場するギムレットとか、世界一美しい夕焼けを表現したシンガポールスリングとか。トニックウォーターで割ってライムまたはレモンを飾っただけのジントニックは、Bar入門の一杯であり、レシピがシンプルだからこそバーテンダーの腕がわかるのだともいわれた。

 


ジンの生まれ故郷はオランダ。17世紀にライデン大学医学部の教授が、薬用酒として開発したのが起源とされている。植民地における熱病対策として、利尿や解熱の効果があるジュニパー・ベリーをアルコール液に浸漬して、蒸留したのがそれだ。

ジュニパー・ベリーは西洋杜松(ねず)という針葉樹の実で、そのウッディでスパイシーな香りの薬用酒は薬用にとどまらず、新しい味わいの酒として人気を得、ジュニエーブルの名で親しまれることになった。

 

そしてジュニエーブルは海を渡り、イギリスへ。呼び名はジュネヴァに短縮され、さらに短縮されてジンと呼ばれるようになる。19世紀になって連続式蒸留器が開発されると、雑味のないクリーンなスピリッツが造れるようになり、ジンは洗練された辛口の味わいに変わっていく。こうして現在主流の『LONDON DRY GIN』が生まれたのである。

 

ちなみに発祥の地オランダでは、その後もジュネヴァと呼ばれ、単式蒸留器で2〜3回蒸留する製法が続けられている。ロンドン・ドライジンとは異なり、原料の風味がしっかり残っているのが特徴で、カクテルではなくストレートで飲まれることも多い。

 

ロンドン・ドライジンの主原料は、トウモロコシや大麦、ライ麦など。これらを糖化・発酵させ、まずは連続式蒸留器でアルコール度数95度以上のスピリッツ(ほとんどピュアなアルコール)を造る。ここまでの工程はウォッカとほとんど変わらないが、そこにジュニパー・ベリーをはじめとした多様なボタニカルを加えて、今度は原料に由来する香味が抽出できる単式蒸留器(ポットスティル)で再蒸留して造られる。

 

ボタニカルは植物系という意味で、古くからジンにはコリアンダー、フェンネル、カルダモンなどの種子や香草、植物の根、シナモン樹皮、柑橘類の皮などが使われてきた。各ジンブランドが、どんな原材料を使用しているのか、そしてその配合比率はどれほどか? これらはもちろん企業秘なのである。

 


ジンベースのカクテルとして、世界で最も親しまれているのはジントニックだろう。ジンがもとは薬用だったことに触れたが、トニックウォーターももとは薬用だ。18世紀のイギリスで、熱帯地方の植民地で働く人々のために、独特の苦みを持つキニーネをはじめ香草や果皮のエキス、糖分を炭酸水に加えて作られた。

キニーネは南米原産のキナの樹皮に含まれるアルカロイドの一種で、原住民のインディオは古くからキナの樹皮を解熱剤として用いていたという。マラリアの特効薬でもあり、当時のトニックウォーターはマラリア予防および治療薬でもあったのだ。

 

やがてジンはアメリカへ渡り、19世紀末から20世紀にかけてカクテルベースとして開花、発展し、世界的なスピリッツとなっていった。ジンのことを「オランダで生まれ、イギリスで洗練され、アメリカが栄光をもたらした」といわれる所以である。

 

そして今、世界で新たなジンブームが起こっている。クラフトジンだ。本場ロンドンで、2008年に3人の若者が小規模ジン蒸留所ライセンスを取得したのがこのムーブメントのきっかけ。クラフトジンに明確な定義はないが、原料や産地、製法などに強いこだわりを持って少量生産されるジンであることは間違いないだろう。

 

BAR BREEZE(茅ヶ崎市)でバーテンダーの松風氏に話をうかがいながら飲んだ。ジュニパー・ベリーだけは必須だが、そのほかはどんなボタニカルを用いてもOKなので、それぞれ地元の特徴ある素材を用いるアイデアで個性を競い合っているのだとか。

 


深いノルウェーの森をイメージして造られたというクラフトジンには、北欧特有の果実、花、樹皮など20種類以上のボタニカルが使われていた。京都で造られた日本初のクラフトジンは、米を原料としたスピリッツがベース。素材には玉露や柚子、檜、山椒などが取り入れられ、ジュニパーのなかに和のフレーバーがふっと顔を出した。

 

「これは沖縄のクラフトジンです」と松風氏。ラベルに『OKINAWA』と書かれたそれは、泡盛をベースにジュニパー・ベリーほかシークヮーサーやゴーヤ、ヒハツモドキなどのウチナー素材が使われていて、飲む前からワクワクさせられるのだった。

 

クラフトジンを3杯飲んで、では最後にと、普通のロンドン・ドライジンでジンライムを作ってもらうことにした。松風氏は、ロックグラスに丸く削った大きな氷を1個入れ、バックバーではなく冷蔵庫から緑色のボトルを取り出してトクトクと注いだ。そして、ライムジュースを加え、ステアし、カットライムを飾る。その所作が、とても美しい。

 

クラフトジンは造り手の技を楽しむもので、ジンは造り手の技以上に、バーテンダーの技を楽しむものなのかもしれないな。クラフトジンは、バーテンダーを超えられるか?

 


取材協力
BAR BREEZE(ブリーズ)
住所:神奈川県茅ヶ崎市元町4-10 五島ビルⅡ 201
予約・お問い合わせ:0467-85-3279
定休日:日曜・月曜