「エンヴェレシーダ」は、どのようにして生まれたのか? 杜氏・松下さんに聞いた

この秋、田苑酒造から新製品『ENVELHECIDA(エンヴェレシーダ)』が発売された。樽の中で熟成させた琥珀色の芋焼酎という珍しさ、焼酎とは思えないボトルデザインやネーミング、さらには俳優の浜田学さんを起用したプロモーションも加わって、業界での注目度はどんどん上がってきている。

 

このお酒はどのようにして生まれたんだろう?
『エンヴェレシーダ』の開発を主導した田苑酒造の杜氏・松下英俊さんを鹿児島に訪ねた。

田苑 金ラベルをはじめ世の中に樽貯蔵焼酎はいろいろあるけれど、原料は麦が多い。実際に大手スーパーの酒コーナーをチェックしてみたら、芋焼酎の樽貯蔵製品はひとつもなかった。その理由を、松下さんが教えてくれた。

 

「樽貯蔵酒のおいしさは、樽の材料である木による香りや味わいです。芋焼酎は、麦焼酎に比べて原料に由来する風味が濃厚なので、この芋焼酎ならではの酒質に樽の良さが調和しづらいのです。『エンヴェレシーダ』の開発に際しても、いちばん難しかったのはそこで、芋の風味と樽の風味をいかに調和させるかという点でした」

田苑が樽貯蔵芋焼酎の開発に着手したのは2000年。今から18年も前だ。日本初の樽貯蔵麦焼酎、田苑 金ラベルを発売したのが1985年だから、15年後にはもう樽貯蔵芋焼酎へのチャレンジがはじまっていたわけである。ただし、数年間は思うようなものが造れず、挫折し、暗礁に乗り上げ、もう止めようとしたこともあったという。

 

「まだ私は関わっていませんでしたが、そのころ試験的に造った原酒のサンプルは残っていました。芋らしさがあって、樽の風味もあるのですが、やはり味わいが整っていないような感じでしたね。そういった事例がたくさんあることは、開発を引き継ぐ者にとっては貴重なデータであり、それを超えることへの励みにもなりました」

 

松下さんが主導するようになってからは、どのように開発が進んだのだろうか?

 

「鹿児島で芋焼酎の原料として最も一般的なのは「黄金千貫」という品種です。この芋から造った、いわば王道の芋焼酎をオーク樽に貯蔵して、いかにうまく調和させるかが当初の課題でした。はじめに実験的に造ったものを試飲すると、香りはいいのですが苦味や辛味が強くて…。原酒にはないものなので、樽の影響です」

 

樽にも個性があり、焼酎におよぼす影響は1本1本異なる。新しい樽ほど焼酎に影響を与えやすい。そこで、使用年数の異なる複数の古樽に貯蔵したり、樽貯蔵期間やブレンド比率を変えていくつものパターンを試してみたが、どうしても思うような酒質は得られなかったという。そして、5年6年と時間だけが過ぎていった。

 

原料の黄金千貫の収穫期は限られており、しかも保存の利く品種ではないため、試験的とはいえ年中仕込むことはできない。当年の収穫分がなくなったら、否応なく試験を中断するしかなく、よけいに開発の進行を遅れさせた。

 

さまざまな試験の結果、米焼酎をブレンドすると望む酒質に近づくことはわかっていた。しかし「そこはやはり鹿児島のメーカーですから、芋焼酎だけにこだわりたかったんです」と松下さん。

黄金千貫を原料にした王道の芋焼酎を樽貯蔵しているのに、どうしても思うような酒質が造れない。そこで松下さんは、考えた。黄金千貫という芋と樽との相性が良くないのではないかと。そして、黄金千貫にこだわることなく、樽貯蔵することに適した芋焼酎原酒の開発へと方向を転換したのだ。

 

どんなに良くできた芋焼酎であっても、それが必ずしも素晴らしい樽貯蔵芋焼酎になるわけではないという結論だ。つまり、樽貯蔵する前の芋焼酎は、あくまでも樽貯蔵を前提とした原酒でなければならず、それを樽貯蔵したのちに本当の完成が待っているということである。

 

「いろんな種類の芋を原料に試験を行いました。最終的に採用したのは、黄金千貫にはない柑橘系のフルーティな香りを持った品種です。『エンヴェレシーダ』は、この芋を原料にした芋焼酎をオーク樽に貯蔵して熟成させています」

 

『エンヴェレシーダ』は、その全量が樽貯蔵されている。樽の影響を受けて、芋焼酎にはバニラのような甘い香りが加わり、美しい琥珀色へと変化していく。使用する樽は、新樽・中古樽・再生樽の3種類を使い分けていて、色も香りも味も異なるのだという。これらを絶妙にブレンドすることで、華やかな甘い香りと深みと重厚感のある唯一無二の味わいが完成するのだ。

「香りも味わいも深い焼酎です。ひとりでじっくり堪能するのもいいし、私なら、落ち着いた場所で気心の知れた友人と2人、学生時代の思い出とかを話しながら飲みたいですね。焼酎の風味と過ぎていくときを楽しみながら…」

 

 

松下英俊さん
1982年生まれ 鹿児島県出身 製造部 研究室所属
「鹿児島の伝統と文化でもある焼酎をもっと知ってもらいたい、飲んでもらいたい。
たくさんの人に味わってもらうことで、焼酎が世代の架け橋になれたらいいな…」

 

 

次回は、エンヴェレシーダのイメージキャラクターを務める俳優・浜田学さんにお話をお聞きします。