一人で飲む最高級の焼酎より、仲間と飲む手頃な焼酎がいい。

プロフィール
肥沼和之さん
1980年生まれ東京生まれ。ジャーナリスト、ライター。2009年からフリーランスに転向し、雑誌やWEBメディア、書籍の執筆も手がける。2012年には東京・新宿ゴールデン街でプチ文壇バー「月に吠える」を開き、バーのマスターとしての顔も持つ。

 

好きな作家の一節に惹かれ、焼酎を飲む

僕が人生で初めて飲んだお酒は、焼酎でした。
僕が好きな作家・椎名誠のエッセイで、「焼酎のポッカレモン割は美味しい」という一文があったんですよ。その一節を見たときに、どんな味がするのだろうと気になって。焼酎を買ってきて、家においてあったチーズを食べながら飲んでみました。それが人生で初めてのお酒でもありましたが、不思議と抵抗感もなく、率直に美味しいと感じましたね。しかし当時は焼酎を特段好きというわけではなく、ビールやウイスキーと並ぶ、好きなお酒の一つに過ぎませんでした。でも新宿のゴールデン街で飲むようになったのをきっかけに、焼酎を好きになっていきましたね。

 

ゴールデン街は戦後にできた街で、文豪やジャーナリスト、演劇の人たちがお酒を飲みながら議論を交わしていると聞いていました。行ってみたら、絶対面白いだろうなと。僕はジャーナリストとして活動していたのですが、その当時の僕は保守的で、自分をさらけ出すことができない性格でした。そんな僕にとっては、刺激的な街だったとも言えます。

 

ただ、そのままではダメだとわかってたんですよ。狭い世界に閉じこもっていては、物書きとして大成できないと。ゴールデン街のような場所に飛び込んで、そこで揉まれることが自分にとって一番いいのではないかと。

 

それからゴールデン街に通い始めました。そして通うだけじゃなくて、思いきって、“中の人”になろうと。ゴールデン街で、自分のお店を始めることにしたんです。それが現在も営業している、プチ文壇バー 「月に吠える」です。2012年にお店を開いてから、街にいる多様な人たちと関わっていくことで、僕の狭かった世界は間違いなく広がりました。体感値として、それまでの百倍以上に視点が広がったと感じます。

 

また、お店を開いてからは、他のお店を飲み歩きました。ゴールデン街は200軒以上のお店があるお酒の街で、ウイスキー、ビール、焼酎が飲まれることが多い。僕が好きになったお店のマスターは焼酎好きのことが多くて、そこで勧められたものを飲むうちに、自分も好きになっていきましたね。

 

 

自分のこだわりは捨てて、その道のプロに従う。

僕が飲む焼酎は、各お店のマスターオススメの焼酎がほとんどです。だからお店によって、キープしているボトルは違います。麦だったり、芋だったり、芋でも違う銘柄のお酒であったり。というのも、僕は素人なのでその道のプロに従うようにしているんですよ。自分はこの種類が好みだとか、味は薄めがいいだとか、そういう自分のこだわりは一切捨てる。

 

その詳しい人の話を素直に受け入れて、好みに合った焼酎はそのまま飲み続ける。合わなかったら、次は違う焼酎を飲めばいい。そうしていく中で焼酎の世界が格段に広がりましたね。

 

考えを固めてこれしか飲まないと決めると、自分の世界が広がらないですから。一見すると「え?」と思うことでもチャレンジした方が、自分の中の常識を壊すことができる。焼酎以外にも、ゴールデン街に来てからはここでは言えないチャレンジもかなりしてきて…(笑)。

 

試しに飲んでみようと思っている人は、焼酎が美味しいお店に行って、オススメの銘柄や飲み方を店主に聞いてみて、それに従うといいと思います。そうすることで、焼酎の世界が自然と広がっていくはずです。

 

 

好きな仲間とお店と飲む焼酎がいちばん美味しい。


ゴールデン街でお店をはじめ、そしていきつけのお店もたくさんできました。自分のお店に来店してくれるお客さんや、いきつけのお店のマスターや常連さんと仲を深める時、焼酎は頼もしい存在です。僕は焼酎を好きだけど詳しくないので、詳しい人に色々と教えてもらうんです。そうすると、「こんな銘柄があるんですね」「この飲み方は美味しいですね」と、自然とコミュニケーションができるんですよ。

 

焼酎がきっかけで会話が増えて、距離が縮まると、それ以外の個人的な話ができるようになる。コミュニケーションの入り口のツールとして、非常に優秀だと思います。焼酎をきっかけに仲良くなった友人も少なくありません。

 

昔はお酒を飲むにしても、友人に誘われた時にたまに飲むか、家で一人きりで飲むことが多かった。でも今では、お酒を飲むときはだいたい誰一緒ですね。仲間と約束をして飲むこともあれば、一人で行きつけのお店に行って、仲のいい店主や同席した常連と一緒に飲むこともあります。好きな仲間と飲むお酒が一番美味しいですから。

 

僕は焼酎が好きですが、特定の銘柄や種類が好き、ということはなくて。その理由を考えた時に、友人がTwitterで呟いていた言葉を見て、すごくしっくりきました。以下がその言葉です。

 

「一人で飲む洒落たワインより、すきな人と飲む番茶がよい。一人で食う高級フレンチより、好きな人と食べる卵かけご飯が良い。一人で過ごすタワーマンションより、好きな人と過ごす四畳半がよい。金がなくても幸福は手に入る」

 

僕も友人のこの考え方に共感します。一人で落ち着いて飲むのもいいですが、やっぱり誰かと一緒にいる時の方がお酒は美味しいものです。だからこれからも、好きなお店と、好きな仲間とともに、焼酎を飲み続けたいと思います。